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December 01, 2019

「アイリッシュマン」を観て思ったこと

 Netflixで配信されている映画「アイリッシュマン」。それほど興味はなかったけど、イタリア系の俳優さんでアイリッシュとはいかに?という点が気になったので観てみました。しかし3時間半は長かった!
 まずはじめに申し訳ないのだが、どう頑張ってもロバート・デ・ニーロがアイルランド人に見えない^^; これは私が普段アメリカよりもイギリスやアイルランドが舞台のドラマを観ているせいもあると思うから仕方のないことなんだろうけど。ただ、おそらくこの作品は「スコセッシ、デ・ニーロ、パチーノの3人で何か作りたかった」映画だと思うから、ちゃんとアイルランド人の(もしくはアイルランド人っぽく見える外見の)俳優さん使えばいいのに、っていう下世話なツッコミも無しにしておきます^^;

 妻と子供を持つトラック運転手のフランクはある日、地域を仕切っているラッセルと知り合う。ラッセルに気に入られたフランクは彼の仕事を引き受けるようになり、徐々に裏社会で出世していった彼は、アメリカの労働組合のトップであるジミー・ホッファからも一目置かれ信頼される人物となる。

 今回は作品そのもののレビューではなく、この作品を観て”もと映画ファン”の私の視点から思ったことを書こうと思います。
 かつて映画というのは映画館で観るものだった。だけど映画館での視聴には時間的な限界というものがあり、伝えたいことを全部詰め込むとものすごく長くなってしまうし、でも限られた時間内で表現するには脚本をそぎ落としていく必要が出てくるわけで、それらをどう妥協していくかが製作する側にとって頭を悩ませるものの一つだったと思う。かといって全部ぎゅうぎゅうに詰め込めばどうしたって御都合主義的な(無理矢理な)展開にならざるをえないわけだし。
 そこでテレビドラマで製作という選択肢が出てくる。ドラマならひとつの物語を何話かかけてじっくり描くことができるし、もともと映画よりテレビの文化だったイギリスには数多くの素晴らしいドラマが作られていた。そしてアメリカでも近年、規制の多いネットワーク局よりも自由度の高いケーブル局から数々の傑作ドラマが生まれたのは言うまでもない。

 観る側にとっても作り手にとっても、もうとっくに「映画>テレビドラマ」という時代ではなくなった。
 かといって、いわゆる「テレビ映画」として製作するものに関しては、やっぱりどうしても時間的制約というものがある。だからこそNetflixのようなストリーミング配信会社によるオリジナル作品の製作というのは、観る側にとっても作り手にとっても歓迎すべき映画の形態だと私は思う。
 もちろんすべての映画がそうあるべきだとは思わない。CGを駆使して3Dや4DX上映で楽しむ作品や、「ボヘミアン・ラプソディー」の応援上映のように観客が一体となって楽しむ娯楽性は映画館でしか味わえないことで、これこそ映画館の本来あるべき姿だと思う。
 だけど、時に(特に日本の映画館で)異常なほどマナーに気を使わなければならないという息苦しさもあって、例えば咳払いやくしゃみひとつにも眉をひそめられるような状況では、作品を心から楽しむことなんでできない。ちなみに私が「映画館に行かなくなった」一番の理由もそれ。
 公共の場だからマナーを守るべきというのはもっともだけど、携帯を切るとか小さい子供を連れて入場しないという基本常識は別として、公共の場であるからこそある程度の寛容性も必要だと私は思う。面白いシーンでは笑い、悲しいシーンでは鼻をすすることもあるし、素晴らしいエンディングには拍手を送りたい。それこそが映画の醍醐味だと思うから。
 でもそれすら許せず、最初から最後まで微動だにしないことを求める人が一部にいることも事実だ。だからこそ「寝っ転がってお菓子食いながらゆったり観れる」「録画予約や時間を気にしなくていい」ストリーミング配信での視聴という選択肢が増えたのは実に喜ばしいことだ。

 3時間半という尺でじっくり描かれたこの「アイリッシュマン」はまさに「映画は映画館で観るもの」という時代の終わりと、映像や音を存分に楽しむための作品は映画館、時間を気にせず自分のペースでじっくり味わいたい作品はストリーミング配信向けに製作、というこれからの映画というものの在り方の多様性を著した作品だと思う。
 物語は、年老いたフランクが自らの半生を振り返る回顧録のような形で描かれています。でも私はこの作品を観て、作り手の「映画」という存在の在り方に対する回顧録でもあるように思えました。フランクが、かつてマフィアやギャングが社会を動かしていた時代を振り返る。だけどその話をしても、現代に生きる若者はホッファを知らない。それと同じように、この作品を通して「映画も昔は華やかな世界だったよね、でもこれからの時代はそれだけじゃないよね」と語りかけられているように感じた。

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